健康で長生きを 長寿国ニッポンを支える伝統食文化
投稿日:2019年11月8日言わずと知れた長寿大国ニッポン。2018年の厚生労働省のデータによると、日本人の平均寿命は男性が81.25歳、女性が87.32歳で、男女ともに過去最高を記録しました。
世界的にみても、世界の国々・地域の中で日本人の平均寿命の長さは男性が3位、女性が2位となるなど、日本人のご長寿は明らかになっています(※1)。
もちろん、恵まれた環境や医療制度が充実しているなど、日本人の長寿の秘訣ともいえる要素はいくつか挙げることができます。中でもよく知られているのが、日本人の食生活です。
ご存知の通り、欧米諸国など世界各国と比較して、日頃日本人が古くから慣れ親しんできた料理や食べ物は低脂質、低カロリーで健康的であるといわれています。
それぞれの地域に長く伝わっている和食が主なものです。今や「和食」は、ユネスコも認める世界の無形文化遺産にもなっています。
今回は、地域に根差す伝統食について考えてみたいと思います。
参考
※1「主な年齢の平均余命」『平成30年簡易生命表の概況』厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life18/dl/life18-02.pdf
目次
伝統食とはどんなもの?
様々な定義がありますが、一般的に伝統食とは、「主にその地域で生産される農林水産物を用いて加工・調理された食物で、その地域の風土や習慣に合わせて長い年月をかけて形作られたものとし、多少現代風にアレンジされたものも含む。」(※2)とされています。
つまり、その土地において古くから親しまれ、息づいている料理や食べ方のことです。行事食などのように特別な機会にのみ食べるスペシャルな料理というよりは、日常的に生活の中に溶け込んでいるもので、その土地の歴史や文化の中で人々の生活の中に浸透し、自然な形で次の世代へと受け継がれてきた料理といってもよいかもしません。いわば、郷土料理と言い換えることもできると思います。
伝統食はその土地の歴史と共に
そしてこの伝統食こそが、昔から日本人の身体を作り、健康的に長生きができるように、栄養面で大きな役割を果たしているといっても過言ではありません。
日本国内には無数の伝統食が存在していますが、広く知られているもののうちいくつか例を挙げてみましょう。例えば山形県の「いも煮」や山梨県の「ほうとう」、宮崎県の「冷や汁」などがイメージしやすいのではないでしょうか。
「いも煮」は、江戸時代に里芋と干したタラを煮て食べたことに由来するという説や、「いも名月」の日に、里芋をお供えしたことに由来するという説があります。
「ほうとう」はコメ作りの難しい山梨県の山間部で麦を栽培し、野菜と一緒に煮こんで食べるようになったことで始まったともいわれています。戦国時代に武田信玄が刀で食材を切ったことに由来し「宝刀(ほうとう)」と呼ばれるようになったという説もあります。
「冷や汁」は、夏の暑さが厳しい宮崎県の気候条件のもと、その冷たい汁料理にマッチしたため農家の人たちがよく食していたともいわれています。
このように、ほんの一部の伝統食に目をやってみても、これらの料理がその土地の農作物や人々の生活様式の中で自然発生的に生まれて、歴史とともに親しまれてきたということがよく分かります。(※3)
参考
※2「伝統食を含む食文化の継承及び地域産物の活用への取組状況の概要」農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sigen_kankyo/dentou_syoku/gaiyou/
※3「見てみよう!日本各地の郷土料理」農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomo_navi/cuisine/
渓流魚(川魚)も伝統食に登場
そんな長寿の秘訣の基礎になっている伝統食文化ですが、実は渓流魚(川魚)も数多く使用されていることをご存知でしょうか?
海沿いの地域では海の魚を使った伝統料理が数多く存在します。一方で、山間部などなかなか気軽に海の魚を手に入れることができなかった地域では、川魚が古くから伝統食の食材として使用されてきました。鮎(アユ)、鮒(フナ)、泥鰌(ドジョウ)、公魚(ワカサギ)、鯉(コイ)などその種類も様々です。
川魚は独特の臭みがある場合があり味付けを工夫したり、寄生虫リスクを下げるためによく煮込んだりするなど様々な調理方法が見られることも特徴といえます。
伝統食に登場する川魚の中でも最もよく食されているといえるのがアユです。香りがあるので「香魚」と呼ばれることもあります。西日本でよく食べられる「アユの姿寿司」(身を酢や昆布で締めたもの、ゆずなどの柑橘類を加えた酢を用いて作られることが多い)や「アユ飯」(アユを醤油、砂糖、酒などとともに炊いたご飯、アユの使用部位が地方により異なるなどの特徴もある)等の料理があります。(※4)
参考
※4「特集2 新・日本の郷土食(2)」『aff』12年6月号、農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1206/spe2_02.html
各地の渓流魚(川魚)を使った伝統食
アユ以外にも、実に様々な川魚をつかった伝統食が日本各地に存在しています。
その中の一部をここでご紹介していきたいと思います。(※4)
◆鮒(フナ)ずし
琵琶湖のある滋賀県で食べられてきた伝統食です。フナを塩と米で乳酸発酵させて、うま味や保存性を高めています。発酵料理のため手間と時間がかかり、独特の香りがあるのが特徴です。
◆鯉(コイ)こく
ぶつ切りにしたコイを濃漿(こくしょう)と呼ばれる味噌仕立ての汁で長時間煮込む伝統料理です。煮込むことでコイの臭みを取り骨まで柔らかくして調理するもので、地域では子どもからお年寄りまで愛されているようです。長野県の一部地域では年越しに食べる風習もあります。
◆鰍(カジカ)のから揚げ・カジカ汁
カジカは北海道南部以南の各地に生息しており、身の小さいものはそのまま丸ごとから揚げにして食されています。さらに大きいものは、ぶつ切りにしてみそ風味の鍋で煮込んだ「カジカ汁」としても食べられるようです。
◆鮒(フナ)のすずめ焼き
小さなフナの身を開いて焼き、一度揚げしてから、タレと共にじっくり煮揚げた一品です。頭から骨まで柔らかく、その形がすずめのようであるため“すずめ焼き”と呼ばれています。
◆アジメドジョウの旨煮
川魚の中でも生息数が少なく高級魚とされているアジメドジョウ。このアジメドジョウが獲れる岐阜県では、夏になると旨煮またはから揚げにして食べられることが多いそうです。
◆鯰(ナマズ)のかば焼き
ナマズはさっぱりとした味をもつため、鍋物や汁、唐揚げなど多様な調理法で楽しまれています。中でも「かば焼き」は人気が高く、特に岐阜県から愛知県にかけた地域でよく食されています。
伝統食の重要なシーンを担う淡水魚
いかがでしたか?
長寿大国ニッポンの食生活を古くから支えてきた伝統食ですが、中には様々な渓流魚(川魚)が使われていることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
伝統食は保存性が高いものも多くあり、古くからの生活の知恵も感じとることができます。
あなたもぜひ日本の伝統食文化に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。