イワナ、川魚料理専門の産直養魚場「白山堂」公式サイト

渓流の天然魚を守る活動から、私たちができること

投稿日:2019年11月20日

山女魚(ヤマメ)や岩魚(イワナ)、雨子(アマゴ)など、川にはおいしい魚がたくさんいます。しかし今、これらの天然魚が減少の危機にあることをご存知でしょうか?

イワナ原種
弊社の深瀬イワナの原種

今回は、渓流の天然魚を守ることがなぜ大事なのか、天然魚を増やす方法とはどんなものがあるかについてご紹介いたします。

天然魚とはどんな魚なのか

そもそも「天然魚」とはどんな魚でしょうか。

渓流には様々な川魚が泳いでいます。その中には人の手によって養殖された後、放流された川魚(以下「放流魚」)や、放流魚と天然魚が交配して生まれた川魚(以下「野生魚」)もいます。

天然魚とは、放流魚や野生魚と違い、その川固有の遺伝子のみを持つ魚のことを指します。「原種」「地付きの魚」と呼ばれることもあります。(※1)


生まれたばかりの岩魚の稚魚

天然魚はたいてい、川の最上流域の滝上や堰堤(えんてい)に住んでいます。それが、ダムの建設や林道の開発、森林伐採によって生息環境が悪化したり、釣り人による乱獲などで数が著しく減少してしまいました。

生活エリアが狭いこともあり、天然魚自体の数が少ないことも特徴です。(※2)

☑参考

※1「渓流漁場のゾーニング管理マニュアル」水産庁http://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/pdf/zouning.pdf
※2「渓流の天然魚を守ろう」水産庁http://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/pdf/keitennnen.pdf

渓流の天然魚はなぜ守る必要があるの?

天然魚が著しく減少していると聞くと、「川魚は養殖出来るのだから、養殖して増やせばよいのでは?」と思うかもしれません。

実は天然魚には個体を守るべき理由が存在します。さっそくご説明しましょう。

水産資源としての永続性

昔からその地に住んでいる天然魚は、その川の環境に適応しています。そのため、野生魚や放流魚と比べて生き残る能力が高いのです。その川での生存率が高い、ということは水産資源として永続的に利用できるということ。つまり、価値が高い渓流魚だと言えます。(※2)

新種をつくるために天然魚が必要

養殖用の新しい品種を作る際には、様々な遺伝子や性質を持つ渓流魚が必要になります。その際に、川固有の遺伝子を持つ天然魚の存在が重要になります。(※1)

学術的に貴重な存在

古くからそこに住んでいる天然魚は、その地域や日本全体、ひいては地球の成り立ちを示すカギ、「生き証人」にもなり得るそうです。学術的に貴重な存在だといわれています。(※1)

故郷のおもかげを残したい

ご自身が生まれ育った町を思い出してみてください。昔と比べてどんどん変わっていきますよね。変化は良いことも多いですが、反面さみしさもあります。天然魚は私たちが生まれるずっと前からその土地に住んでいる住民です。変化が多い時代の中で、古くからあるものを残したいと考えることも人間心理です。(※1)

天然魚を増やす方法を解説

天然魚を守る必要性についてお分かりいただけたと思います。

では、どのようにしたら天然魚を守り、結果的に増やすことができるのでしょうか。

まずは天然魚がいる場所を見つける

天然魚がいる場所を見つけるためには、聞き取り調査が一般的です。今までの放流状況やダムの建設時期などあらゆる角度から調査し、天然魚の生息地域を絞っていきます。

さらに精度を上げるために、「遺伝子分析法」が用いられています。天然魚だと思われる渓流魚のヒレを一部切り取り、水産試験場で検査をすることで天然魚か否かが分かります。(※2)

禁漁

天然魚がいる場所が分かったら、次は守る手段を考えます。効果的な方法のひとつが「禁漁」です。禁漁とは魚の捕獲を禁止することです。禁漁には適する川があります。例えば、環境が良いにも関わらず、釣られ過ぎて渓流魚が減っている川や産卵が多い川です。

禁漁して魚が増えてきたら、後に解禁するのも良い手段だとされています。「禁漁を解禁したエリアには、高い遊漁料を払っても行きたい」と考える釣り人は多いようです。禁漁することで減収を懸念する場合もありますが、解禁後に通常よりも高い料金を設定することで収益アップが期待できるという漁場にとってのメリットもあるようです。(※2)

利用ゾーンに制限を設ける

全面的に禁漁してしまうと、「釣りたい」という人の願望を満たすことができません。そのため、禁漁ゾーンとは別に「利用ゾーン」を設けることも方法のひとつです。釣りをする上での制限(ルール)を設定することもあります。

例えば、持ち帰ってよい渓流魚のサイズを決めておく(15センチ以上のみなど)、持ち帰ってよい渓流魚の数を決めておく、キャッチ&リリースのみなど、その川の状況に合わせたルールが考えられます。(※3)

森林の環境を整える

渓流の周りにある森林を整えることも、天然魚を守る効果があります。渓流魚は川の水温が高くなると弱ってしまいます。木は川に日陰をつくるため、水温上昇を抑える重要な役割を担っているのです。

また天然魚は水生の昆虫だけでなく、陸上のアリやバッタなどもエサとして食べます。落ち葉と共にこれらの昆虫が水中に落ちてくるため、川の近くに落葉広葉樹があることも重要なのです。(※2)

産卵しやすい場所をつくる

渓流魚が産卵しやすい場所を、人工的につくることもあります。渓流魚が産卵しやすい場所とは、水深10~30センチで水面が波立たないくらいの流れがあり、川底に卵を産むためのくぼみをつくることができる場所だそうです。

「そんな場所はたくさんありそう」と思うかもしれませんが、実際は違います。林道工事や森林伐採によって川底が土砂で覆われてしまったり、ダムや堰堤によって天然魚が産卵場所まで行くことができなかったりするのが現実です。

人工産卵場づくりは手作業で行うのが一般的です。子供にとっては川遊びの一環にもなりますので、地域住民と協同して楽しみながら行うのも良いかもしれません。(※4)

ゴミはポイ捨てしない

森林を守るための方法は色々ありますが、私たちがすぐできることは、ゴミのポイ捨てをしないことです。森や川に行ったとしても、「行ったときよりもキレイにして帰る」くらいの意識をもちたいところです。

山や川から離れている身近な生活圏においても、ゴミのポイ捨ては止めましょう。環境保護のためにも、きちんとゴミの分別をするのも大事なことです

。水は巡り巡って、ひとつの地球を構成しています。日々のあなたの行動が渓流の天然魚を守ることにつながっているのです。

☑参考

※3「渓流魚の増やし方」水産庁 http://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/pdf/keiryuu1.pdf
※4「渓流魚の人工産卵場のつくり方」水産庁 http://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/pdf/jinko6.pdf

いかがでしたか?

「天然魚を守る」と聞くと行政や漁業協同組合などの活動だと思う人がほとんどです。確かに、大きな組織で動かなければ天然魚は守ることができないレベルまで環境が悪化してしまいました。

しかし、今回ご説明したとおり、私たちができることもあります。小さな活動だとしても、ひとりでも多くの人が地道に努力すれば、やがて大きな力となって地球を守ることにつながります。

先々の私たちの子孫が安心して暮らすことができるように、まずは身近なゴミのポイ捨てをしない、ゴミはきちんと分別するということから始めてみてください。

今回の記事が日々の行動を見直すきっかけになってもらえたら嬉しいです。